今日は少し早く授業が終わったので、いつものようにキャンパスの芝生で日向ぼっこをしていました。
すると、目の前を一筋の影が横切ったのです。それは、学生でした。
何かから逃げている様子でもなく、ただひたすら真っ直ぐに、速く走っています。
その学生を追うように、何人かの学生たちが続く光景を見て、「あ、あれは」と気がつきました。
デタラメ大学の非公認サークルの一つ、「最速で帰宅する」ための経路開拓サークルの活動日だったようです。
彼らの活動は、ただ単に「早く帰る」という目的のためだけに、キャンパス内の最短経路を日々探求し、記録することにあります。
まるで、ゲームのRTA(リアルタイムアタック)を現実の日常で実践しているようでした。
経路開拓サークルとは?RTAに似た活動内容

活動理念は「今日という日を早く終えること」
このサークルの正式名称は「経路開拓同好会」ですが、部員の間では「最速帰宅サークル」と呼ばれています。
彼らの活動理念は非常にシンプルで、「授業終了から最寄り駅の改札を通過するまで」の時間を最小化することです。
誰かの助けになるわけでもなく、スポーツとして競技性を高めているわけでもありません。
ただただ、今日という日を早く終えたいという、純粋な願いのために走っているように見えます。
彼らがスタート地点に立つ時、その表情は真剣そのものです。
それは、テストに挑むときや、就職活動の面接に臨むときと同じくらいの緊張感かもしれません。
一日の終わりに全てを賭けている、そんな静かな情熱を感じました。
誰も知らないキャンパスの「非公認ルート」
彼らが開拓するルートは、一般の学生が使う舗装された道ではありません。
最短距離を追求するため、植え込みの中や、立入禁止のロープのすぐ脇など、誰も知らないキャンパスの「非公認ルート」を当たり前のように通過していきます。
それは、地図の上では直線でも、現実では障害物だらけの道です。
中には、古い建物の裏にある、埃をかぶった非常階段を使う部員もいました。
その階段は、普段は施錠されている場所だと聞いていたのですが、彼らは特別な方法で突破しているようです。
私が「そこは危なくないのですか?」と尋ねると、リーダーらしき学生は「危険を避けるための最速経路は、危険を冒さなければ見つからない」と、哲学者然としたことを教えてくれました。
使用する道具とタイム計測の流儀
彼らが使用するのは、GPS機能付きの高性能なストップウォッチと、ルートを記録するためのウェアラブルカメラです。
これらの道具を使って、1秒、いや、0.1秒単位でタイムを計測しています。
彼らの活動は、まさにRTA(リアルタイムアタック)そのものです。
タイムアタックの流儀として、途中で道を間違えたり、人にぶつかったりした場合は、その日の記録は「失敗」となり、リトライは許されません。
次の活動日まで、その記録は持ち越されることになります。
その厳しいルールが、彼らの通学時間を短縮する裏技の探求を、より真剣なものにしているのかもしれません。
失敗した部員は、ただ立ち尽くし、次のリトライを静かに待っていました。
【検証】通学時間短縮のための異常な「裏技」
植え込みを突き進む「苔のじゅうたん」ルート

彼らが頻繁に使う「裏技」の一つに、大きなイチョウ並木の植え込みを、横切って突き進むというものがあります。
このルートは通常の舗装路より大幅に短縮できますが、泥や枝が服につくというデメリットがあります。
しかし、彼らはそのデメリットを「速さ」というメリットで打ち消していました。
彼らが選んだルートの植え込みは、土が柔らかく、まるで「苔のじゅうたん」のようになっていました。
靴の裏に泥をつけないために、特定の場所だけをピンポイントで踏み抜く技術は、一種の芸術のようでした。
彼らはただ走っているのではなく、地面の感触と対話しているように見えます。
その静かな集中力は、私には少し眩しく感じられました。
障害物を乗り越えるパルクール的アプローチ

キャンパス内のベンチや低い柵、そして学食の裏に積み上げられた空の段ボール箱。
これらは一般の学生にとっては障害物ですが、彼らにとっては「踏み台」です。
助走をつけて軽く飛び越えたり、手を触れて体の向きを変えるなど、パルクールのような動きを見せます。
もちろん、彼らはプロのパルクール選手ではありませんので、時々失敗して転んでしまう部員もいました。
転んでもすぐ立ち上がり、何事もなかったかのように走り出す姿は、感動的というよりは、「そこまでして…」という、静かな驚きを私に与えました。
彼らは、立ち止まるという行為を、最も恐れているのかもしれません。
大学 最寄り駅 攻略のカギは「心の壁」
最速帰宅サークルの活動のゴールは、最寄り駅の改札を通過することです。
彼らにとって、改札までの道のりは単なる物理的な距離ではありません。
学生が歩く一般道を逸脱した彼らのルートは、多くの「心の壁」にぶつかります。
例えば、大学の門の守衛さんに「こら!」と怒鳴られたり、一般の方から奇異な目で見られたりすることもあります。
しかし、彼らはそれに動じることなく、ただひたすら真っ直ぐにゴールを目指すのです。
彼らは”大学最寄り駅攻略のカギ”は、この「心の壁」をいかに早く突破するかにある、と考えているようでした。
彼らが目指す最短経路は、物理的な距離だけでなく、社会的な目線との摩擦を最小化するラインなのかもしれません。
観察を終えて:彼らが求める「速さ」の意味
経路開拓サークルは、一見するとただ変なことをしている集団に見えます。
しかし、彼らの真剣な活動を見ていると、これは「通学時間の短縮」という実用的な目的を超えた、哲学的な探求なのではないかと感じました。
彼らが求めている「速さ」は、単なる移動速度ではありません。
それは、一日の生活という枠の中で、いかに「無駄な時間」を削ぎ落とし、自分の時間を最大化するかという挑戦のように見えました。
最速で帰宅した後の彼らが何をしているのかは分かりませんが、きっと彼らの人生の中で最も大事な何かを、その「速さ」が生み出した時間の中で行っているのでしょう。
彼らの姿は、私が普段何気なく過ごしている時間にも、もっと価値があることを教えてくれているようでした。
まとめ
デタラメ大学の「最速で帰宅する」ための経路開拓サークル。
彼らが探求するRTA(リアルタイムアタック)な日常は、私のようなのんびりした学生には真似できない、静かで熱い情熱に満ちていました。
私には到底たどり着けない裏技ルートですが、彼らが開拓した道の先にある、「今日という日の静かなゴール」を、私も大切にしたいと思いました。
また、別のサークルの活動も見つけたら、そっと観察記録を残したいと思います。
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